「デザイン思考」と聞くと、デザイン関係の仕事で用いる考え方と思う方も多いと思いますが、最近はそうではありません。
経営や事業展開など、ビジネスの上でデザイン思考が活用されるようになってきているのです。
今回は、デザイン思考とは何か、その特長やステップなどをわかりやすく解説していきます。
デザイン思考とは、デザイナーやクリエイターがデザイン制作時に利用する思考方法を使って、ユーザーも気づいていない潜在ニーズを発見することで、本質的な課題解決を行うための思考法です。
可愛かったり印象的なものとしての「デザイン」というよりも、「発生した問題や課題の解決」としてのデザインという意味合いが強いです。
例えば、建物入口のスロープや、シャンプーリンスを区別するための突起などは、ユニバーサルデザインと言って体が不自由な人のために工夫されています。
デザイン思考で使われる考えは、これらのようなデザインを作るために使われる思考を利用したものなのです。
また、デザイン思考は、ユーザーの視点に立って課題を考えることが重要になります。
ユーザー視点で商品やサービス見て、それを使った将来まで見通すことで、ユーザーの本質的なニーズを満たすことができるのです。
似た言葉で「アート思考」というものがあります。
これは、アーティストが作品を生み出す際に利用する思考をビジネスでも利用することで、より独創的で今までにないモノを創り出すための思考法です。
デザイン思考の目的である「課題発見・課題解決」とは異なり、アート思考の目的は「新しいものの創造」になります。
やはり、ユーザーの消費活動の多様化が一番の要因です。
今までは、市場やユーザーのニーズを調査し仮設を立てて検証を行って製品・サービスを開発するという「マーケティングリサーチ」や「仮説検証型」が主流でした。
しかし、デジタル技術の発展やグローバル化の促進など、市場がより複雑になり今までなかったニーズが生まれている現代において、リサーチだけでは本当の課題やニーズを見つけるのは困難になってきています。
今のような時代は、Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとってVUCA時代と言われています。
VUCA時代では、世界の変化が著しく未来の予想がしにくいため、今までのようなアプローチ方法ではニーズにあった商品・サービスを創り出すのは不可能です。
混沌を極める世界で本当の問題やニーズを発見するために、デザイン思考をビジネスに利用する企業が増えてきているのです。
デザイン思考は、5つのステップを踏む必要があります。
詳しく見ていきましょう。
まずは、ユーザーアンケートやインタビューなどでどんな製品・サービスを求めているのか調査します。
その時、ユーザーの意見を鵜呑みにするのではなく「どのようなことを考えてこの答えにたどり着いたのか」と、ユーザー視点に立って本当のニーズを探るように意識しましょう。
ステップ1での調査を元に、ユーザーが本当に求めていることは何かを考え、定義します。
ここで課題解決のための具体的な方向性を決めます。
ステップ2で定義したニーズや課題を元に、ブレインストーミングなどを行って課題解決するためのアイデアやアプローチ方法を話し合いましょう。
なるべくたくさんのアイデアを出し合い、その中でもユーザーの潜在ニーズを一番満たしていそうなものをよく吟味して選びましょう。
出したアイデアの中からいくつかピックアップできたら、まずは試作品を作ります。
試作品にはなるべく時間や予算はかけず、とりあえず形にすることを目的にしましょう。
試作品を作ることで、実際に使った時の感じや新たな改善部分を発見できます。
試作品を実際にユーザーに使ってもらうことで、ユーザー視点での意見を貰います。
それを参考に、試作品をブラッシュアップしてよりいいものに仕上げていきます。
テストを繰り返すことで製品・サービスの品質改善を行っていきましょう。
製品・サービスを実際に利用したユーザーの反応をもとに、仮設が正しかったか、最終形態がニーズにあったものになっているかを確認しましょう。
これら5つのステップは順番に行う必要はありません。同時に行ったり何度も前に戻ったりして、試行錯誤しながら本当のニーズにあったものを創り出してください♪
デザイン思考はメリットだけでなく欠点もあるようです。
どちらも確認していきましょう。
デザイン思考ではユーザーのニーズの深堀りを行うため、常にユーザーが欲するものを開発することができます。
流行が変わってもニーズに合った商品を生み出すことができるので、安定した利益とブランドとしての信頼性を得ることができます。
ユーザーの潜在ニーズを見つけ出し、ブラッシュアップを繰り返して製品の品質を上げていくので、失敗するリスクが少ないです。
莫大なコストをかけたのにあまり売れなかったりするリスクが少ないことで、プロジェクトメンバーも積極的に投資ができ、自信のある製品・サービスを開発できるようになるでしょう。
デザイン思考では、チームメンバー全員でアイデアを出し合いまずは受け入れるという姿勢が重要です。
そのため、メンバーも「とりあえずアイデアを考え、提案してみる」という姿勢が確立し、お互いにアイデアを言いやすい環境を作ることができます。
デザイン思考では、様々な意見を受け入れることでそれらの意見から新しいアイデアが生まれたり、今までにない発想を得られるという考えがベースにあります。
このような考え方により、どんな人の意見も受け入れるという姿勢が社内に広がり、枠にとらわれない発想を生み出せるようになります。
ブレインストーミングでは、チームメンバーとたくさん話し合い、意見を交わし合うことが重要になります。
そのため、チャットツールなど会話以外のコミュニケーションが発達している中でも、人とのコミュニケーションをとる場を作ることができます。
この習慣が社内にも広がっていけば、チームワークを高めるきっかけにもなりますし、従業員同士のコミュニケーションを深めることにも繋がります。
デザイン思考では、ユーザーの声を参考に新しいものを生み出してく考え方なので、ユーザーがまだ知らない、この世にないものについてはコメントや意見のしようがありません。
そのため、この世にない全く新しいものを生み出すには、デザイン思考は向いていないのです。
デザイン思考では、初期段階からユーザーが求めているものをベースに作るため方向性が最初からある程度決まっている&試作品もあまり時間・費用をかけずに作るためコストが低いと言われています。
たしかに、市場調査を碌にしないで開発したものよりもかかるコストは抑えられますが、まったくかからないというわけではありません。
デザイン思考のチームメンバーは、知識や発想力のある優れた人材を集めるため、それをやっている間はいつもの業務ができなくなってしまいます。
また、デザイン思考は成功するまで時間がかかるものです。
短期間で出来るものではないので、優秀な人材の時間を費やすことに加え、時間もある程度かかってしまうのです。
人件費と時間はけっこうかかっていることを認識しておきましょう。
デザイン思考では、様々な意見を出して話し合い時にぶつかりながらより良いアイデアを出していきます。
そのため、同じような考え方をもった人を集めるのではなく、いろんな部門から知識のある人材を集める必要があります。
デザイン思考で製品・サービスを開発するには時間がかかるとお伝えしましたが、人材を集めるのも苦労する可能性が高いです。
デザイン思考を活用したことによって、開発に成功した事例をご紹介します。
ここで、デザイン思考の可能性を知っていってください♪
デザイン思考の代表例として挙げられるiPod。
iPodの開発は、競合他社の製品分析とユーザーがどのように音楽を聴いているかを徹底観察することから始まりました。
そこから、ユーザーはCDからパソコンに落とし、さらにプレイヤーに入れることを面倒に思っていることが分かりました。
そこで、「音楽の聴き方に革命を起こす」「全ての曲をポケットに入れて持ち運ぶ」というコンセプトが生まれたのです。
円盤型のマウスで操作が簡単、PCとの自動同期が可能、持ち運べるほど軽量でスマートな見た目など、今までにない音楽プレイヤーが完成しました。
歴代史上最も売れた任天堂のゲーム機「Wii」の開発は、社員の家庭観察から始まったそうです。
それぞれの家庭を観察すると、ゲーム機を持つ家族の親子関係は悪く、家族が集まるリビングにおいて子供の滞在時間が短いことが分かりました。
そこで、「家族仲をよくするきっかけとなるゲーム機」「家族みんなで楽しめるゲーム機」というコンセプトが生み出されたそうです。
年代関係なく操作しやすいリモコン型のコントローラー、省エネのCPU、場所をとらないコンパクトな見た目など、家庭に置くことをベースに試行錯誤を繰り返し、大ヒットのゲーム機になったのです。
LINEでは、新サービスやゲームなどを開発する際はカメラが取り付けられたユーザーリサーチルームを設置し、ユーザーの行動分析を行ってサービス開発に役立てているそうです。
また、新しいサービスを開発した際は想定ユーザーに試してもらい、実際の操作性やユーザーの表情などを細かく観察します。
そこから新たな課題を見つけ、逐一改善していくようです。
ユーザー満足度の高さは、このような徹底した行動観察から来ているのです。
デザイン思考はすごく新しい考え方というわけではありませんが、多くのヒット商品を生み出す支えとなっているアプローチ方法です。
製品・サービスは、ユーザーがいないと成り立ちませんし、多くのユーザーに良いと思ってもらわないと時間とコストをかけた意味がありません。
多くのユーザーに気に入ってもらえる製品・サービスを作るためには、今後もデザイン思考が必要になることでしょう。
ぜひ、デザイン思考を取り入れてみてください♪