日本の高齢化率(総人口に占める65歳以上の割合)は、令和6年10月時点で29.3%。
これは、およそ3人に1人が65歳以上であることを示しています。
高齢化が進んでいる日本において、高齢者の雇用機会を増やすため、定年が70歳まで引き上げられるのではないかと言われています。
70歳定年の義務化はいつからなのか、定年について知っていきましょう。
2025年4月、高齢者雇用安定法により、65歳までの雇用確保が完全義務化されました。
これにより、全ての企業は以下の点を守る必要があります。
定年を定めている場合、定年年齢は60歳以上にしなければなりません。
定年を65歳未満に定めている事業主は、次のいずれかの措置を講じる必要があります。
なお、70歳までの就業機会の確保は、今のところ努力義務でとどまっています。
70歳定年が義務化されるのはまだ先の話でしょう。
なお、70歳までの努力義務の内容は以下の通りです。
次のいずれかの措置を講ずるように努める必要があります。
厚生労働省が2024年12月に公表した「高齢者雇用状況等の報告結果」によると、70歳までの高齢者就業機会の確保措置を実施している企業は31.9%いるようです。
全体の3割を超え、前年と比較すると2.2ポイント増加したそうです。
企業規模でみると、中小企業の方が大手企業より実施率が高いようです。
前年より増えたとはいえ、定年を65歳以上に設定している企業は3割にとどまっています。
70歳となると、受け入れる企業だけでなく就業者本人も不安な部分がたくさんあると思います。
定年の引き上げは慎重に進める必要があります。
定年制度は日本だけにあるものなのでしょうか。
海外の事情を見ていきましょう。
アメリカでは、法律で労働者を年齢で差別することを禁止しています。
そのため、警察や消防士などの公務員以外では定年制が禁止されています。
これは、カナダやイギリス、オーストラリアでも同様です。
ドイツをはじめとするヨーロッパ諸国では、年金受給年齢=定年年齢という認識が一般的です。
ドイツは現在年金受給年齢が65歳なので、定年も65歳という認識です。
しかし、ドイツでも年金受給年齢の引き上げが議論されているため、そう遠くない未来に定年が67歳になる可能性が高いです。
70歳定年制が義務化するかはまだ分かりませんが、それに備えて企業がやっておくべき対応策について知っていきましょう。
まずは、現在の継続雇用年齢を確認しましょう。
加えて、社内や部署ごとの年齢構成、組織目標と課題を整理しましょう。
その上で、シルバー人材の活用方法を考えましょう。
シルバー人材は、経験者であればその知識やスキルを応用して活躍できる可能性を秘めています。
活躍できそうな仕事や部署を洗い出し、人材の無駄遣いにならないように配置を考えましょう。
定年年齢が変わると従業員の退職タイミングも変わるので、就業規則を変更する必要があります。
定年を延長する場合はその規定を設け、再雇用制度を導入する場合はその条件や手続き方法を記載します。
就業規則を変更した際は、労働基準監督署への届け出と従業員の周知が義務付けられています。
従来と同じ賃金制度を利用するか、高齢者雇用向けに賃金体制を刷新するか選ぶ必要があります。
高年齢雇用継続給付という制度を利用できますが、2025年4月から縮小されており今後廃止する可能性の高い給付金です。
高齢者のモチベーションが下がらないように、企業と従業員がお互いに納得できるようにしましょう。
60歳以上の高齢者を働かせる場合、雇用形態や業務内容などの労働条件の見直しが必要になります。
高年齢者の体力的に、今までと同じように働くのは難しい可能性があるため、フレックス制や短時間勤務など働き方を選べるようにしましょう。
労働条件の変更も、従業員の同意を得る必要があるので、しっかり話し合ってから決めましょう。
高年齢者にとって働きやすい環境を整えるため、労働環境を見直しましょう。
長時間労働が常態化していないか、配線や荷物が煩雑に置かれているなど危険性がないか、不安定な場所での作業はないか等、今の労働環境における危険を発見して改善に動いてください。
労働環境の見直しは、シルバー人材を含めた従業員全員にとってメリットが大きいです。
これを機に、従業員が働きやすい環境を整えていきましょう。
高年齢者は、やはり今までと同じように動けない人もいるでしょう。
そうなると、社内での立場や労働条件などでストレスを感じることも多いと思います。
何か悩みがある時に、相談窓口があれば気軽に相談することができます。
相談窓口があることでストレスを発散できるため、離職を防ぐことができます。
定年年齢の延長や再雇用制度を導入する場合は、事前に既存の従業員に周知しておきましょう。
いきなりシルバー人材が入ってきたら、対応の仕方が分からずお互いにストレスを感じる可能性があります。
事前に把握していれば、お互いに気持ちよく働くことができます。
では、厚生労働省で紹介されている、現在継続雇用年齢の上限を70歳に定めている企業の取り組みを紹介します。
今後のために、ぜひ参考にしてください。
太陽生命保険では、65歳定年制度および70歳まで働ける継続雇用制度を導入しました。
また、年齢に応じた一律の処遇引き上げを廃止し、年齢に囚われずモチベーション高く働ける環境を整えています。
雇用区分や年齢に関係なく、能力や意欲に応じた挑戦ができる就業環境を整備しています。
定年後、正社員として再雇用する「エルダー社員」を創設し、担う役割が変わらなければ給与も変わらず支給され、賞与も支給されます。
なお、店舗スタッフは定年後も役職登用されるので、今まで働いてきた経験を活かしながら、定年後もしっかり働けるようになっています。
年齢にかかわらない人事に向けて、役職定年によるポストオフ(一定の年齢で役職から外れる人事制度)を廃止し、人事評価に基づく厳格な人材配置で、人材の無駄遣いをなくしています。
また、雇用延長制度を見直し、公募の中から自分のキャリアプランに合致したポジションに応募可能な仕組みを導入しています。
入社後に活躍できないということがないよう、従業員のキャリア形成のための子会社を設立し、研修や面談、ジョブマッチングを実施しています。
高齢期における柔軟な働き方の選択肢を増やすため、役職定年制度を一部廃止しています。
定年後は、今までの経験やスキルに親和性の高い業務を任せています。
役職定年制が残っている役職では、給与が大幅に下がらないように激変緩和措置を設けています。
柔軟な働き方を実現するため、高年齢者は週4勤務と週5勤務の2つの勤務形態の選択肢を設けています。
定年後の基本給は下がってしまいますが、実績次第でインセンティブも支給されるため、スキル次第では定年前社員と同等水準の年収を得ることもできます。
70歳定年制が努力義務化されているため、遠くない未来に義務化される可能性があります。
しかし、体力的に65歳でリタイアしたい人もいるでしょう。
定年が70歳だった場合、定年前に退職してしまうと、自己都合退職扱いになって退職金が出なかったり減額されたりする可能性があります。
そこについては会社によるので何とも言えませんが、注意が必要な部分です。
また、体が思うように動かない、物覚えが悪くなるなどの症状も出てくるので、他の従業員に迷惑をかけたり事故のリスクが高まったりという懸念点もあります。
しかし、最近は健康寿命も延びているため、複雑でない作業であれば65歳以上でも取り組めると思います。
技術発展によっても変わってくると思うので、今後に期待しましょう。
少子高齢化が進んでいる今、人材確保のためにシルバー人材を活用する必要があります。
会社のどの仕事で活躍してもらえるのか考え、従業員全体が気持ち良く働ける環境を整えましょう!