インボイス制度の実施が間近に迫っていますが、インボイス制度の影響で課税事業者になる場合は、簡易課税制度を利用した方がお得になる場合もあります。
「簡易課税制度ってなに?」という方のために、わかりやすく解説していきたいと思います。
中・小規模事業者における消費税計算の負担を減らすための特例です。
消費税を計算する場合、本来は
消費税の納税額=課税売上にかかる消費税額―課税仕入れにかかる消費税額
という計算になり、これを「原則課税」といいます。
※なお、課税売上の消費税額から仕入(仕入額費用・通信費・交際費など)の消費税額を差し引くことを「仕入税額控除」と言います。
しかし、一定の売上高に当てはまる中・小規模事業者に対しては、より簡易的な税額の計算方法を使うことができ、計算の手間を省くことができるのです。
これを「簡易課税制度」といいます。
簡易課税制度が作られている理由は、様々な税区分(消費税10%、8%、課税、非課税など)が存在するため、経費の消費税を計算する際に手間取ってしまうからです。
それらの負担を軽減するために、経費の消費税を計算する際に実際にかかった消費税額ではなく、売上の消費税の一定率で計算できるように「みなし仕入率」というものが設定されているのです。
課税売上が5000万円以下なので、売上高の中から非課税取引を引いた売上を計算して5000万円以下になるか確認する必要があります。
簡易課税の計算方法は、
消費税の納税額=課税売上にかかる消費税額―課税売上にかかる消費税額×みなし仕入率
となります。
みなし仕入率は事業ごとに異なるので、自分の事業に合わせて仕入率を確認してみてください。
事業区分 | みなし仕入率 |
第一種事業 卸売業 | 90% |
第二種事業 小売業/農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡にかかる事業者に限る) | 80% |
第三種事業 農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡にかかる事業者を除く) 鉱業 建設業 製造業 電気業 ガス業 熱供給業および水道業 | 70% |
第四種事業 第一、二、三、五、および六種事業以外の事業 | 60% |
第五種事業 運輸通信業 金融業および保険業 サービス業(飲食店業に該当するものを除く) | 50% |
第六種事業 不動産業 | 40% |
簡易課税制度にはどんなメリットとデメリットがあるのでしょうか。
ここで確認していきましょう。
上記でも言ったように、経費の消費税を計算する際の手間がかなり削減されます。
原則課税では、課税や非課税取引、税率10%のものと税率8%のものなどを区別して計算していかなければいけないので、事務処理や管理でかなりの負担がかかってしまいます。
しかし、簡易課税を利用すればこのような計算をする必要がなくなるので、短時間で計算できる上に管理の手間も省けるのです。
簡易課税では事業によってみなし仕入率が決まっていますが、原則課税で計算した消費税額よりもみなし仕入率の数字が大きければ、その分節税することができます。
加えて、消費税の納税額を把握しやすくなるため、資金繰りもやりやすくなります。
一度簡易課税制度を適用すると、2年間は原則課税に戻すことができません。
2年間簡易課税でも損しないか先を見通した上で利用しましょう。
複数の事業を営んでいる場合、それぞれの事業区分にあったみなし仕入率をかけて計算する必要があり、事務処理が大変になります。
なお、それをしない場合はもっとも低いみなし仕入率で計算するという方法もありますが、これだと大きな損失を被るのでやはり別のみなし仕入率を使って計算する他ありません。
簡易課税制度では消費税の還付が受けられないため、簡易課税制度の適用中に多額の消費税を払ってしまうと、還付が受けられない上に消費税の納付額がかえって大きくなる場合があります。
大きな設備投資を控えているなどの場合は、一旦簡易課税制度は適用しない方がいいです。
簡易課税が絶対にお得というわけではなく、場合によっては原則課税を適用した方がお得になる場合もあります。
どういう場合なのか見ていきましょう。
仕入税額控除の割合(仕入率)がみなし仕入率よりも低くなる場合は、簡易課税の方がお得です。
例えば、あなたが建設業を営んでいて、原則課税の計算方法で仕入税額控除の割合が50%だった場合。
建設業のみなし仕入率は70%なので、簡易課税制度を適用した方がお得になります。
仕入率の計算方法は、仕入額÷売上額×100です。
計算してみて、みなし仕入率との差を確認してみてください。
逆に、仕入率がみなし仕入率よりも高い場合は、原則課税の方がお得です。
設備投資など、大きな投資を行った場合は原則課税の方が納税額が低くなる場合が多いので、一度計算して比較してみてください。
インボイス制度の実施によって免税事業者から課税事業者にならざるを得ない場合、簡易課税制度を利用することで納税する消費税額を抑えることができます。
インボイス制度実施後も簡易課税制度は今までのように利用できるので安心してください。
自分にとっての買い手側が課税事業者で自分が免税事業者の場合、自分がインボイス制度を発行できないため、そのままだと取引を減らされる可能性があります。
よって、課税事業者になる選択を迫られます。
課税事業者になると、消費税を一定額納める義務が発生してしまいます。
また、自分にとっての売り手側が免税事業者で自分が課税事業者の場合、相手にインボイスを発行してもらえないため、仕入税額控除を受けられません。
こうなると自分が不利益を被ります。
このような場合でも、簡易課税制度を利用することでインボイス制度の負担を減らすことができるのです。
条件に当てはまる場合は、免税事業者も課税事業者もぜひ簡易課税制度を利用してみてください。
インボイス制度については、下の記事で詳しく説明しているので一緒にご覧ください。
インボイス制度実施後に使える特例も紹介しているので、負担を減らすためにぜひ知っていってください。
簡易課税制度を利用するためには、「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります。
【提出期限】適用を受けたい課税期間の初日の前日まで
※調整対象固定資産や高額特定資産の仕入れ等をした場合は、この届出書を提出できない場合があります。
なお、届出書は前年度中に提出しないと今年中に制度を利用できなくなってしまうので忘れずに提出してください。
「消費税簡易課税制度選択届出書」はコチラからダウンロードできます。
簡易課税から原則課税への切り替えは、原則2年経たないとできません。
しかし、2年経てば簡易課税をやめることができます。
大きな設備投資を控えている場合など、簡易課税を適用していると不利になる場合は簡易課税をやめる手続きをとりましょう。
簡易課税をやめるには、簡易課税の適用をやめたい課税期間の初日の前日までに「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出してください。
今回は、インボイス制度とも関係がある簡易課税について説明しました。
中・小規模事業者は税処理の負担を減らせるので、ぜひ積極的に活用していきましょう。